アイデア満載の乳肉複合経営/那須町中島隆(なかじまたかし)さんを取材致しました。

今回は那須町千振開拓の中島隆さんを取材しました。現在中島牧場では搾乳牛約200頭、育成牛約200頭 出荷乳量約6㌧弱/日繁殖和牛10頭(経産牛)を飼養している乳肉複合経営(肥育部門はなし)になっています。和牛母牛は主に採卵用ドナー牛で採卵(2回/年)→AI(人工授精)→分娩→採卵というサイクルで利用しています。矢板家畜市場には年間約60頭出荷しています。和牛子牛販売は牛肉自由化の代償で始まった免税処置が魅力で始めたそうです。乳牛メガファームは乳牛後継牛育成預託費用を捻出するためにF1(交雑種)や和牛受精卵による子牛販売を行っている場合が多いですが中島牧場ではもっと積極的に系統もこだわって頭数も増頭する計画です。以前とちぎの和牛を考える会で発表いただいた(有)北那須牧場(白老町)には参加しなかったですが関わりがあったみたいです。また地域柄角田正雄さん等優秀な和牛農場が近くに多数あり関わりをもつことで必然的に和牛生産に力が入ったようです。また酪農では乳質も基準内を満たしていれば価格差に大きな優劣はありませんが和牛の場合血統や体格、発育状態によって市場で評価され頑張り甲斐がありそこに魅力があると伺いました。

隆さんは2代目で約10年前に酪農部門は隆利さん(3代目)に経営移譲しており乳牛の貸腹を利用しながら和牛部門は主に隆さんが行っています。従業員は隆さん夫婦2名、隆利さん夫婦2名、外国人研修生4名(現在はタイの研修生)で運営しています。最近酪農では補助金等もあり雌雄判別精液が多く流通し受胎すれば約90%雌が生まれるため昔と比較し後継牛の確保が容易に出来るようになったため繁殖状況が良好であれば後継牛が溢れる状況になっており和牛生産を後押ししているようです。一時期はF1(交雑種)の価格高騰により貸腹が低調な時期もありましたが最近は活況なため和牛農家からみればチャンス到来です。

チモシー乾草は酪農と共用しコンテナ購入できる点も大きなメリットです。写真のようにカットされたチモシー乾草が飽食状態です。

子牛飼養管理については先ず舎内で1頭飼いを数日(乳牛共通)行い哺乳バケツで初乳~飲ませた後、写真の自動哺乳期に移動させ約2ヶ月哺乳します。

乳牛はここで離乳しますが和牛はさらに育成牛舎に移動し下の写真にあります仕切りの付いたミルクバー(哺乳桶)を柵に立てかけて哺乳します。発育によって個体差はありますが約3ヶ月齢まで哺乳します。かまぼこ型の乳首が放射状に配置されたものは見たことがありましたがこのように1頭1頭仕切りの付いたものは初めてみました。これは既製品ですが当初は自作し使用していたそうです。哺乳意欲のある個体には観察して上からミルクを追加することもあるそうです。清掃も容易で従来品では出来ない個体哺乳量調整が出来る非常に便利なアイテムだと思いました。

取材時は哺乳時間ではなかったですが試しに設置したところ子牛が吸い付いてきました。高い設置だと思いましたが上手く吸い付いている様子が分かります。

 

畜舎には写真のように風除けカーテンが設置されていますが風の流れを遮断してしまうとカーテンが破損してしまうため網目状になっていて風を往なすようにしています。このほうが換気も出来て風除け機能も十分あるそうです。県北なので豪雪、強風に耐える工夫がされています。このカーテンの構造は写真が暗くて分かりづらいですが哺乳施設でも応用されています。

敷料も多く清潔で頭数も過密でなく子牛ものびのびとしている様子が分かります。

舎内の哺乳施設はコンパネの内側に石灰が塗布されており衛生対策も万全です。金属の枠も自作され工夫満載です。

平成19年度には優良生産者として表彰されています。

これはDairyComp305という繁殖管理ソフトから印刷されたグラフですが月別の分娩頭数が9ヶ月先まで棒グラフで表示されています。緑色が経産牛で黄色が未経産牛分娩頭数です。乳牛でも和牛でも経営を考えるうえで一番大事なのは年間の分娩頭数であり乳牛後継牛とのバランスや頭数を考えた上での和牛生産、販売との両立が必要です。年間で約60頭もの和牛販売頭数を継続可能にするポイントであることがよく分かりました。

最後に千振開拓について触れておきたいと思います。戦後約75年前に満州千振からこの地に引き揚げてこられて何もないところを開墾し古くから畜産を営んできた歴史について隆さんから伺いました。昔は那須~白河(福島県)一帯にかけて軍馬生産地であったことからこの地で畜産が発展していったそうです。千振開拓も以前は酪農家が60軒ほどありましたが現在は15軒まで減っているそうです。興味のある方は“千振開拓のあゆみ”(千振開拓記念事業委員会発行)を県内図書館等で読んでみてください。