磯野均牧場取材レポート(和牛肥育)

令和2年2月5日に那珂川町磯野均牧場(和牛肥育、一部和牛繁殖)に訪問取材しましたのでご紹介致します。磯野牧場は道の駅ばとうから見える位置に立地し那珂川流域の特徴的な環境下にある。現在和牛肥育を80~85頭肥育している。(以前は100頭前後飼育していた)昔は繁殖も行っていたが受胎率の悪さから撤退した。しかし最近素牛の高値が続いたことや息子さんが人工受精師免許取得したことから現在一部再開している。

矢板家畜市場等子牛市場での購買ポイントに関して磯野牧場では①儲かる牛②トントンの牛③儲からない牛の3つに分けて見極め①儲かる牛②トントンの牛を購買している。後述する“とちぎ和牛”のブランド化に向け“ピン”に絡むような牛も購買しているという。一昨年は平均約145万(税抜)で販売したが経営的にはトントンの状態。前年対比で1頭当たり10~15万高い子牛を購買していることから利益を圧迫してしまった。全農通し販売で平均約125万(税抜)肥育仲間では赤字が多く1頭販売し1頭購買出来ればよい方で大体は3頭販売し2頭購入がやっとで栃木県内の肥育頭数は減少傾向にある。肥育農場が存在し続けないと繁殖農場は成り立たないと均さんは繰り返しおっしゃっていた。最近宇都宮牛も“とちぎ和牛”に県内一本化したため見かけ上は頭数が増えているが実質は減少している。(宇都宮牛約400頭)

“とちぎ和牛”は出荷頭数で3000頭を割り込んでいるが東京市場(芝浦)では屠殺頭数は全国一である。“とちぎ和牛”のブランド化に向け販促活動費として約4000万円計上している。学校給食を全国に先駆けて取り入れたのは磯野さんの地元那珂川町である。ブランド化に関し岐阜県(飛騨牛)との取り組みと比較すると岐阜は栃木に比べ特産が少ないため“ラーメン屋”に至るまで飛騨牛を掲げその盛り上がりは凄く地産地消に寄与している。販促活動を始めた当初東京市場において14~15年前で前沢牛(岩手県)と枝で300~400円/kg安値であったが現在はその差が縮まっている。栃木県は畜産に対して予算額が少ないため“とちぎ和牛”売上の0.5%を拠出し販促活動費に充てている。活動を開始し今年で19年目に入るが当初は“とちぎ和牛”は大田原和牛、那須和牛等地域で分散化しておりトップブランドを目指し一本化する必要があった。銀座や都内一等地デパート前でリーフレット配布等努力し10年かけてようやくトップブランド化を果たした。最近需要が高まる中国向けに対し30か月以内で屠殺出来る屠場も全国4か所のみ(北海道1か所、九州3か所)なので屠場の整備も急務となる。地域振興に関し30%オフクーポン(予算額約3億、和牛のみ)を発行したがこれは関東代表で福田富一栃木県知事が厚生労働大臣、農林水産大臣に交渉し実現したものである。これにより県内消費が伸びた。また全農が実施した“和牛甲子園”も栃木県が提案したもので今年で3回目になる。全国出場全30校のうち6校が栃木県である。昨年、一昨年は日本ハム系列北関東日本フードが栃木県の牛を購買いただいた。また新潟県株式会社三国のバイヤー川野さんのアイデアで県内外でこの高校生が生産した牛肉販売を開始し好評を得ている。

第3回和牛甲子園

経営の面から生産費20か月で40万、素牛60万、人件費1万/月で販売120万くらいが最低であるが素牛価格が高すぎるので利益が出ていないのが現状である。また疾病等で廃用になった場合もマイナスが大きい。矢板市場に出場する牛は全体的に過肥が多く食い止まりが持続し約1ヶ月も及ぶ場合がある。体格体型、体重だけでは判断がつかない場合も多く苦労する。ロース芯の太い牛ほどサシが入る。過肥牛ほどロース芯が太くならず儲からない。ロース芯は70㎠ないとダメだそう。食い止まり過肥牛は取材に行った時にも2頭確認出来た。ロース芯が太くなる牛は素牛段階で太もも(臀部)が写真のように丸みを帯びているらしい。

飼養管理に関し磯野牧場では粗飼料を主体として約3か月間は体重を絞り込む(無駄な贅肉を削ぎ落とす)素牛段階で飽食させて外見的にスッキリとした牛は成績が出ない。前述したように見極めが難しいので体重が重い牛を選んで飼い直しでスッキリとした体形にもっていくほうが確実である。最近は子牛にTMR給与が増加しているが出荷直前まで給与して見栄えの良い牛は導入時に食い止まりが起きて困るとおっしゃっていた。磯野牧場ではチモシーヘイ+稲わら+WCS(稲ホールクロップ)食い止まり防止には腹八分目でとどめておくことがポイントである。そうすることで飼料給与する人間が近づいた時に牛のほうから寄ってくる。導入時は配合飼料3~4kg/日でエサ箱が直ぐ空になる量で給与しマスに入れた牛に競い食いをさせる。給与量は牛ごとに勢いを見て給与量を決めている。12か月齢までは前述の3種類混合TMRを給与しその後は肥育用TMRに切り替える。導入時はバイパスタンパク(東日本くみあい飼料/横綱づくり)を300g/日給与してフレームをつくる。導入時3~4kg→15か月7kg→16か月8kgと徐々に食い止まりを起こさないよう、尿石にならないように給与量を増やしていく。尿石は育成期段階で発症した牛は肥育段階でもなりやすい。1マス2頭よりは3頭のほうが運動量が増える。食い止まった牛は枝重が乗らない。

磯野さんの考えでは素牛能力(先天的)70~80%、肥育技術(後天的)20~30%ではないか?とおっしゃっていた。

繁殖子牛農家も矢板家畜市場で購買くださる肥育農場の事情や要望を踏まえた飼養管理が大切なのではと思います。

最後に・・・新型コロナウイルスで単価下落、消費沈滞が深刻ですが皆で知恵を絞ってALL栃木でこの難局を乗り越えていきましょう!!